ウォーレン・バフェット氏のヘッジファンド批判が止まらない
かねてよりヘッジファンドに批判的だったウォーレン・バフェット氏ですが、バークシャー・ハサウェイの年次株主総会で、同氏はさらに厳しくヘッジファンドマネジャーを批判しました。
バフェット氏曰く、「投資業界のプロたちは、手にする報酬額に値する仕事をしていない。一般投資家はヘッジファンドなどに投資せずに手数料の低いインデックスファンドに投資すべきだ」。
※一般的にヘッジファンドの手数料は「2:20モデル」と呼ばれ、管理手数料2%、成功報酬料20%(収益に対して20%)を投資家から徴収している。
さらに同氏は、「もしあなたが歯医者に行って治療を受けたとしよう。あるいは、配管工を雇ったとしよう。彼らプロたちはあなたが自分ではできない仕事をやってくれるので、彼らの仕事には価値がある。しかし、投資の世界ではこれは当てはまらない」と批判を続けます。
(参考元:Buffett Says Money Spent on Plumbers Better Than on Hedge Funds)
私の知人に海外投資に詳しい人がいますが、彼によりますとヘッジファンド業界は玉石混合で、長年にわたり安定的なリターンを出し続けているファンドもあれば、数年で破綻するゴミみたいなヘッジファンドも多いそうです。
バフェット氏が批判するように、ヘッジファンドの成績はそれほど酷いものなのでしょうか?
株式指数と比べるとヘッジファンドの凡庸な成績がよく分かる
ヘッジファンドといっても、運用手法は様々です。株式のロングショート戦略もあれば、空売りオンリーの戦略もあります。また、マネージド・フューチャーズ(商品先物取引)戦略や債券アービトラージ戦略もあれば、転換社債アービトラージ戦略もあります。さらには、これらの戦略を複合したマルチ・ストラテジー戦略もあります。
これらの様々な手法で運用するヘッジファンドの総合指数である “Credit Suisse AllHedge Index” と株価指数を比べてみると、ヘッジファンドの成績がいかに平凡なものかよく分かります。
6カ月 | 1年 | 3年平均 | 2004年10月以降の年平均 | |
Credit Suisse AllHedge Index | 1.54% | 3.56% | -0.57% | 2.09% |
S&P 500 Index | 10.12% | 17.17% | 10.37% | 8.44% |
MSCI World Index | 0.00% | 12.47% | 3.46% | 4.80% |
以下のリンク先では、平均リターンの数値は過去3年までしか公表されていませんが、チャートは2004年から表示させることができます(日本語表示も可能です)。
リーマンショック時の株式指数の落ち込みは相当なものですが、一方のヘッジファンド総合指数はまだマシでした。しかし、大暴落があっても、アメリカ株は必ず復活して前の高値を越えてくるという確信があれば、ヘッジファンドなどに投資するより手数料の安いETFで運用した方が遥かに有利ですね。
また、再度、リーマンショック級の大暴落があれば、その時は一旦現金化して嵐が過ぎ去るのを確認してから買い出動することができればベストですね。ただし、これは大暴落の兆しをチャートから判断できる能力があったらの話ですが。
2016年度:ヘッジファンドマネジャーが手にした驚きの報酬とは?
世界最高峰のヘッジファンドマネジャーたちは、一体どれほどの金額の報酬を受け取っているでしょうか?
アメリカの経済誌Fortuneは毎年、ヘッジファンドマネジャーたちの報酬を公表しています。2016年度版高額報酬ランキングTOP10は以下になります。
ランキング | 運用者名 | 会社名 | 2016年の報酬額 | 旗艦ファンドの2016年の成績(手数料引き後) |
1 | James Simons | Renaissance Technologies | $1.5 billion | 21.5% |
1 | Michael Platt | BlueCrest Capital Management | $1.5 billion | 50% |
3 | Ray Daio | Bridgewater Associates | $1.4 billion | 2.4% |
4 | David Tepper | Appaloosa Management | $750 million | データなし |
5 | Kenneth Griffin | Citadel | $500 million | 5% |
6 | Daniel Loeb | Third Point | $400 million | 6.1% |
6 | Paul Singer | Elliott Management | $400 million | 13% |
6 | David Show | D.E Show Group | $400 million | データなし |
9 | John Overdeck | Two Sigma Investments | $375 million | 3% |
9 | David Siegel | Two Sigma Investments | $375 million | 3% |
(参考元:The 25 Highest-Earning Hedge Fund Managers And Traders)
高額報酬ランキング上位の常連であるジェームズ・シモンズ氏の報酬額は、1ドル100円計算で1500億円になります。ヘッジファンドに詳しい方でしたら、この天才数学者の経歴はご存知だと思います。
現在79歳のジェームズ・シモンズ氏は、名門マサチューセッツ工科大学(MIT)を卒業後、UCバークレー校で23歳の時に数学において博士号を取得しています。さらに、30歳の時には学部長に就任しています(ストニーブルック大学にて)。この若さで博士号を取得したり、学部長に就任したわけですから、幼少の頃から計算がかなり得意だったんだろうなと思っていたら、やはりそうでした。
以下のニューヨークタイムズの記事から察するに、ジェームズ・シモンズ氏は子どもの頃から寝ても覚めても数学のことばかり考えていたようです。
14歳の時の夏休みに、彼はガーデン用品の店で倉庫係のアルバイトをしました。しかし、いつまで経ってもどこに何があるのか覚えようとしないため、床掃除係に降格させられています。その彼が「僕はMITで数学を勉強したいんだ」と言った時、彼の上司は誰も信じなかったそうです。恐らく、アルバイト中も数学のことばかり考えていたのではないかと私は思っています。
話が少し横道にそれてしまいましたが、いくつかのヘッジファンドを除くと、ランキング上位に入るヘッジファンドであってもその成績は平凡なものです。
とはいうものの、2008年と2009年にはヘッジファンドから巨額の資金が流出しましたが、それ以降は資金流入が続いていました。2006年には$51.4 billionの資金流出がありましたが、運用残高は増加傾向にあります(参考元:Value of assets managed by hedge funds worldwide from 1997 to 2018) 。
投資家からすれば、「損を出さずに運用してもらえばそれでよし」ということなのでしょうか。確かに長年にわたりプラスの成績を出しているヘッジファンドもあるわけですので、そのようなヘッジファンドには「2:20モデル」は納得の報酬体系なのでしょう。
まあ、これらの上位ランキングに入るヘッジファンドに投資するには、最低でも数億円以上のお金を用意しないと受け入れてもらえませんので、私たち一般庶民にはあまり関係のないことですが・・・。