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ヘッジファンドのほとんどは約5年で破綻!その短かすぎる運用期間の本当の原因とは?

トラックレコードが極端に短いヘッジファンド

私が英語を勉強していた時、よく読んでいた雑誌の一つにThe New Yorker(ニューヨーカー)があります。

今朝、洗練された文体で知られるこの文芸雑誌のウェブ版でヘッジファンドに関する興味深い記事を見つけましたので、ご紹介したいと思います(ヘッジファンドに関する記述は中盤辺りにあります)。

この記事によりますと、ヘッジファンドの平均運用期間は約5年だそうです。

2010年の終わり頃には約7,200のヘッジファンドがありましたが、2011年には775のヘッジファンドが破綻、そして、2012年には873のヘッジファンドが破綻しています。

そして、この筆者(同記事のライター)の推測では、ヘッジファンドの3分の1は運用開始から3年以内に破綻しているとのことです。

ヘッジファンド業界の出入りは非常に激しいと聞きます。多くの新しいヘッジファンドが次々と立ち上がる一方で、資金ショートに陥り閉鎖に追い込まれるヘッジファンドが数多く存在します。

直近5年のトラックレコードでは良い数字を残してきているヘッジファンドであっても、ある日突然制御不能になって破綻することがあります。

単なる戦略ミスであれば、「ある日突然破綻」することは考えにくいです。なぜなら、予測と違った方向に相場が動いた場合に備えて『ヘッジ』している、あるいはそうなった場合は『損切りする』であろうと考えられるからです。

実際のところ、ヘッジファンドの多くが短期間で破綻する本当の理由は他のところにあります。

それは、「オペレーショナルリスクの管理不備」による破綻です。

私は、資産運用アドバイザーの知人から、ヘッジファンドの破綻理由について話を聞いたことがあります。

彼曰く、「ヘッジファンド業界にいた人から直接聞いたのですが、ファンドの多くが短期間で破綻に追い込まれる理由は、戦略ミスというよりも、杜撰なリスク管理体制に原因があることがほとんどだそうですよ」とのこと。

オペレーショナルリスクは、「オペリスク」とも呼ばれ、全ての企業に存在する、通常の業務活動(オペレーション)に係るリスクの総称をいいます。これは、銀行などの金融機関の場合、狭義には事務リスクとシステムリスク、広義には信用リスクと市場リスク以外の 「その他のリスク」を指すことが多いです。
引用元:iFinance.com

ヘッジファンドは高いレバレッジを効かせて運用しているため、リスク管理におけるわずかなミスが命取りになる場合があります。

世界を震撼させた巨大ヘッジファンドの破綻

世界を震撼させた巨大ヘッジファンドの破綻と言えば、LTCM(ロングターム・キャピタル・マネジメント)の破綻があまりにも有名です。

当時(1998年)、私はまだ金融業界では働いておらず、また金融市場には興味もなかったのですが、そんな私でも「ただならぬことが起きている」ことは分かっていました。連日、テレビのニュースやニューヨークタイムズ紙では、この世の終わりが来るかのような報道や記事ばかりでした。

そして、LTCMの破綻から8年後、巨大ヘッジファンドの破綻が再びウォール街を震撼させました。それが、2006年9月に起きた大手ヘッジファンドAmaranth Advisors(アマランスアドバイザーズ)の破綻でした。

Amaranth Advisorsは、数多くのヘッジファンドが集まるコネチカット州グリニッチにて2000年に設立されました。同ヘッジファンドは運用開始以来、高い収益を上げ続け、破綻する直前の運用残高は90億ドル(約9,000億円)にまで膨れ上がっていました。

Amaranthは、2000年~2006年8月までは優れたリターンを上げていましたが、9月に入って突如、運用残高の6割にあたる50億ドルを失い破綻しました。

破綻する直前まで優れたリターンを上げ続けていたファンドが、僅か1週間で資金の半分以上を吹き飛ばして破綻に追い込まれる・・・。

信じられないことですが、これは、同社の杜撰なリスク管理体制とBrian Hunter(ブライアン・ハンター)というカナダ出身の若干32歳のトレーダーによって引き起こされました。

一人のトレーダーの暴走が命取りに

Brian Hunter氏は、カナダのアルバータ大学で数学を学んだ後、天然ガスパイプライン会社のTransCanada社に就職し、そこで天然ガスの取引を開始しました。間もなくして成功を収めた同氏は、2001年にウォール街のドイツ銀行に移籍しました。

ドイツ銀行でも天然ガスの先物取引で成功を収めたBrian Hunter氏は、移籍後の2年間で同社に$69 million(約69億円)の利益をもたらし、$1.6 million(約1.6億円)の報酬を手にしています。そして、2003年には天然ガス取引チームのヘッドに就任しました。

2003年12月までには$76 millionの利益を上げ、このままプラスのリターンで新年を迎えると思われていましたが、同月突如、Hunter氏が率いるチームはリスクの高い取引に失敗して僅か1週間で$400 millionの損失を出してしまいました。

※Brian Hunter氏は損失を出した理由を2つ挙げていますが、これは同氏の一方的な主張であり真相は定かではないようです。従って、これについては日本語で紹介しても良いかどうか分かりませんので省略させていただきます。理由をお知りになりたい方は、以下の参考記事(「ウォールストリートジャーナル電子版」と「WikipediaのBrian Hunter氏に関する記述」)をお読み下さい。彼の「人となり」が分かると思います。

短期間で巨額の損失を出したBrian Hunter氏はドイツ銀行を去り、その後、Amaranth Advisorsに移籍しました。同氏がAmaranthに入社する前、同社の幹部はHunter氏がドイツ銀行で出した損失のことをすでに知っており、さらに同氏のバックグラウンドを入念にチェックしたにもかかわらず、「問題なし」と判断して同社に迎え入れました。

Amaranthに移籍後も、Hunter氏は天然ガスの取引で大きな利益を上げ続け、2005年の終わり頃には「2つのハリケーン(カトリーナとリタ)による天然ガスの高騰」に賭ける大きな取引に成功して、$1 billion(約1,000億円)の利益を上げました。この成功により、同氏はウォール街ではちょっとした「レジェンド」になりました。

会社から大きな信頼を得たBrian Hunter氏は、さらに強気な取引を続けるようになります。「ハリケーンの影響で冬の天然ガスの供給は減るだろう」と予測した同氏は、再び大きな賭けにでます。そして、さらにリスクの高い期先のポジションも積極的に取るようになりました。

2006年6月には6%のリターンを上げ、翌月はフラット、そして、8月は6%のリターンを上げています。しかし、成功はそう長くは続きません。表面上の数字ではこれまで優秀な成績を収めていましたが、ファンド内部の管理体制は優秀ではなかったようです。

2006年9月、天然ガスの価格は大きく下落し、Amaranthは突如として資金の6割以上を失い、あっけなく破綻してしまいます。

これは後で明らかになったことですが、Hunter氏は、本社のあるコネチカットから遠く離れた故郷カルガリーでトレードを行っており、しかも、ファンドを破綻させるほどの大きなポジションを取ることが許可されていたそうです。

Amaranthは、$9 billion(約9,000億円)もの巨額資金を運用するファンドでありながら、リスク管理体制は呆れるくらいにお粗末だったようです。

参考元:

投資で成功するための2つのルール

世界一の投資家であるウォーレン・バフェット氏は、投資で成功するためには2つのルールを守りなさいと言っています。

【ルール1】絶対に損をしないこと
【ルール2】ルール1を絶対に忘れないこと

この言葉はバリュー投資家には有名ですね。投資や短期売買のトレードにおいて、損失を回避することはできませんが、「損失を最小限に抑える」ことは可能です。

バフェット氏の言う「損をしないこと」というのは、つまり、自分の判断が間違っていると気づいた時点でさっさと損切りをして、損失の拡大を避けるということだと私は解釈しています。

前述のAmaranthの話に戻りますが、多くのトレーダーたちの証言によりますと、Brian Hunter氏は、クローズしたくてもできないほどの大きなポジションを持っていたようです。これには流動性の低い期先のポジションも含まれていたとのことです。

「予測と違う方向に相場が動いたら、迷うことなく損切りする」ということは、投資で大きな損をしない鉄則です。しかし、流動性が低い金融商品に投資していた場合、そう簡単にポジションを解消することができません。

上記の参考記事を基に、Amaranthの破綻に関わる要素を私なりにまとめると、以下になります。

  • Amaranth崩壊の発端となった同社幹部の判断ミス(スタートレーダーを獲得したいあまり、ドイツ銀行でのHunter氏の失敗を重要視しなかった)
  • 一人のトレーダー(Hunter氏)があまりに大きな自由裁量を持っていた
  • Hunter氏は、これまで上手くいった自分の相場観を過信した
  • そのため、解消したくてもできないくらいの大きなポジションを取った
  • それらには流動性の低い期先のポジションも含まれていた

一人の自信過剰なスタートレーダーによる無謀な取引が、資金の6割以上を一瞬にして吹き飛ばし、巨大ヘッジファンドはあっけなく沈没・・・。

Amaranthの破綻は、人間の弱さと脆さを感じる出来事でした。

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